リスタート(高校生 朝田さやかさん)
助っ人にならないか、と三人に誘われてから、私の心は大きく揺れていた。うちのクラスの委員長、湊が「やる!」と即決したことも、ドンと後ろから背中を叩かれたような気分だった。
「なんで湊は助っ人受けたの?」
「だって、バレーが好きだから。楽しそうだし」
湊だって、入学した時は私と同じようにバレー部から勧誘がかかっていて、様々な理由から辞めることを選んだ人だった。同じだと、勝手に思っていたのに。「好きだから」って、澱みない笑顔を浮かべて言える湊がなんだか許せなくて、だけど同時にとても羨ましかった。
「雪も好きなんじゃないの?」
その、黒曜石みたいに固く光る瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。忘れていたものが沸々と泡になって上っていく感覚。それは、タイムカプセルを掘り起こした時の感動に似ていた。昔大事だったものは、振り返って今見たとしてもそれは大事なもので、それは私自身にしか分からない価値観。
「うん……。私、バレー好きなんだ」
湊への返答なのか自分への言葉なのか、もはや分からなかった。些細な悩みと自分の弱さが、「バレーが好きだ」というその一つの感情に負けた瞬間だった。湊に裏切られたと思っていたここ数日の負の感情は刹那にして消え去り、今度は私を導いてくれた感謝の念に満ちている。
「ありがとう。私もバレーやる」
「え、まじ! やった」
一度離れてみて、気づいたことがある。「もうあんなにキツイ思いはしたくない」と「私は下手だから」と理由をつけて遠ざけていたのは、そうしないと自分を制御できなかったから。自分が傷つきたくないからそうしていただけで、心にかけていたストッパーを外せば、身体全身がいつも「バレーしたい」と叫んでいた。私はこんなにも、バレーボールというスポーツに魅せられてしまっていたのかと、自分でも信じられない。これが、私のリスタート。どこか淀んでいた世界がもう一度クリアに開けるような、そんな感覚がした。