• HOME
  • 学生
  • リスタート(高校生 朝田さやかさん)

リスタート(高校生 朝田さやかさん)

「気をつけ、礼」

「ありがとうございました」

全員の声が重なり、応援に来てくれていた保護者の拍手が温かく私たちを包んだ。ユニフォームに染み込んだ汗がずっしりと重くて、一年間で積み上げた思い出の分だけ濃く染まっていた。

夏が終わった瞬間というのは、こんな気持ちに包まれるものだっただろうか。ちょうど外の晴れ渡る空のように清々しく、一欠片の後悔さえしていない。不思議と涙は溢れてこなくて、ただ、何故だかお腹の底から笑顔が溢れ出してくるのだ。

「写真撮るよー」

心からの笑みが零れる。みんなも笑っていて、三年前とは大違いだ。三年前は、みんなが泣いていた。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間に全員が泣き崩れて、後から後から止めどなく流れる涙で声を失っていた。あと五点足りなくて、私たちは全国大会へ出場することが出来なかった。出しきれなかった想い。決められなかった一点。取れなかった一本。胸の中は悔しさでいっぱいで、「敗北」の二文字が目の前に立ち塞がっていた。

だけど、今は違う。右手で交互に作る指ハートとピースに、偽りなんてない。一回戦負け、という言葉だけみれば「しょぼい」と誰もが思うかもしれない。もちろん、もっと戦いたかったという気持ちがないわけじゃない。でも、今日のみんなは確かにコート内で輝いていたから。格上のチームに、簡単に点を取らせはしなかった。拾って打って、拾って、繋ぐ。長いラリーをいくつも重ねて、やっともぎ取れた一点。もう一本、もう一本って、チームが一つになって立ち向かっていた。スコアも敗北も関係ないって思えるくらい、私たちはがむしゃらにプレーできた。

この一年、コロナのせいで練習ができなかった日も、様々な制約が課された時だって、大会が中断されたことだってあった。ほとんど無観客の体育館の熱はいつもより小さかったかもしれない。だけど、いつバレーが、当たり前だと思っていた日々がなくなるか分からないからこそ、一球一球に全力を注げたんだと思う。大会が開催されたこと自体が素晴らしいことで、支えてくれる人たちの存在をもっと身近に感じられた。私は、そんな支えてくれた人へ恩返しができるプレーを必死にできたと言い切れる。

「楽しかった」

隣で言った湊の声が私の胸にすとんと落ちた。

「うん、楽しかった」

そうだ、楽しかったんだ。バレーってこんなに。中学校の三年間、勝ちに拘りすぎて忘れかけていた思いが胸に湧き上がる。人目も責任もプレッシャーも関係ないじゃないか。私が中学校の三年間バレーをやめなかったのは、どんなに辛くても、楽しかったからだったんだ。

一人が二回連続で触った時点で反則になるルール上、一人のスーパープレイヤーがいるだけでは成り立たない、究極の団体競技。どんなスポーツよりも仲間を大切にする競技だから、私は。

「バレー、好きだな」

見渡せばいつも、そこには仲間がいる。揺らめくネットが私を誘って、コートが宝石みたいに輝く。そこにボールがあるだけで、私たちは心を通わせることができる。リスタートしなければ気づけなかった想い。仲間とともに見る景色は、どこだって最高だ。悔しさも嬉しさも、思い出という大切な宝物を私に教えてくれたのは、いつだってバレーボールだった。

「なあ、ちょっとだけパスしよ?」

だから、私はこれからもずっと、側にいる誰かと一緒に次のラリーを追い求め続けるのだ。