コロナ禍ではじめたゲームセンターでのアルバイト(専門学校生 京さん)
次の出勤日、彼は来た。そしてしつこく私の学校や本名などを聞いてきたり、私に女の友達がどれだけいるか聞いてきたりした。終いには恋愛相談までされて大変困ってしまった。
丁重にお断りして、上司にいざとなったら彼氏がいると言えと言われていたのを思い出し、それを実行してみると、今度は友達を紹介しろと言われた。ますます意味がわからないので強めに断ってその場を離れたが、彼は諦めていないようだった。
数日後、彼は店に来なくなっていた。なんと、私の他のバイトにも声をかけまくり、最後は既婚の先輩に女の子を紹介してくれとしつこく頼んで、先輩がかなりきつく言って追い返したらしい。
まったく厄介なお客さんだった。その一言に尽きる。
勿論、ゲーセンに来るお客さんはこのような人ばかりではない。
対応したらありがとうと声をかけてくれたり、不慣れな私がミスをして謝ったら優しく許してくれたり、仲良くなれた常連さんなんかは、髪型を変えたら褒めてくれたり…嬉しいことも沢山ある。
厄介なお客さんの対応をした後、嫌な気持ちになってしまっても、別のお客さんから、ただ普通にありがとうと言っていただけたら、それがいつもよりずっとずっと嬉しく感じる、そんなこともあった。
また、そうしたお客さん方との関わりの中で、学んだことがいくつもあった。
接客態度や、言い方、説明の仕方、断り方、謝り方、お礼、などなど。一期一会、まさにその言葉がぴったりなお客さんが多い中で、何を反省すべきなのか、何を今後生かしていくべきなのか、私はよく考える。
もう一生会わないであろうお客さんに理不尽に罵倒されても、あまり気にしないでおこう、とか。もう一生会わないとわかってるけど、この場で楽しんで、良い気持ちで帰って欲しい、とか。傷ついたり、逆に元気付けられたり、人間だから、全部はうまくいかないし、全員に優しくすることはできないけれど、せめてちょっとでも、楽しんでもらえたらな、なんて烏滸がましいことを考える。
ゲームセンターには様々なお客さんがやってくる。
流行初期に多少影響があっただけで、現在まだコロナ禍といえるこんな時期でも、たくさんのお客さんが来る。雨が降ろうが雪が降ろうが槍が降ろうがやってくる客もいれば、ふらっとやってきて店内を回るだけの客、ひたすら文句を言う客、キャンペーンに釣られてくる客、店員とは関わらない常連客、仲良くなれた常連客、偶に来る客…きっと、コロナ禍など、関係ないのだ。
ゲームセンターってところは、そういうところなんだろうと、思う。
そりゃあ少しはコロナの影響もあるけど、一部のお客さんからしたら大した問題じゃない。そんなこと関係なしに、誰かの居場所になれる。それが素敵だと思うときもあるけど、厄介なときもあって、なんとも複雑だ。
面倒くさいけど、楽しいときもある。嫌なこと言われても、嬉しいこと言ってくれたり。仕事ってそういうものだと、言えるほど私はえらくないけれど、それでもまあ、そういうものなんだろう。
だから私は、私のために、しばらくはこのバイトを続けていく。
この経験がきっと、これからの私のためになると信じているから。