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コロナ禍ではじめたゲームセンターでのアルバイト(専門学校生 京さん)

結論から言えば、緊急事態宣言明けのバイトは、ぼろぼろだった。

私は私で思い出しながらちまちま作業をするし、上司達は上司達で、私にどこまで教えたか覚えていなかったため、そこで齟齬が発生しトラブルが続いた。

しかし、それも最初のうちだけで、初出勤から4、5回目の出勤で、私ははなんとかゲーセンの店員としてまあまあ機能できるようになった。

初めは恐る恐る、なんとかついていける、程度にしかできなかったゲーセン業務も、慣れてしまえば簡単な物で、偶に難しい機械のエラーや厄介なお客さんさえ来なければ楽なものだった。

本当に、厄介な、お客さんが、来なければ、だが。

機械のエラーは、まだいい。先輩に助けを乞うなり、マニュアルを見るなりで対処の仕様があるからだ。

しかし、厄介なお客さんにマニュアルなどはない。

例えばクレーマー。彼らは大体がクレーンゲームのお客で、やれ景品が取れないだのアームの力が弱いだの騒ぐ。こちらがどれだけ丁寧な説明をしようとも分かってはくれない。彼らにとって、悪いのはゲーセン店員で正しいのが自分だからだ。

そういうとき、私は下っ端である今の身分を盾にする。魔法の言葉、「今上の者を呼びますので」を発動するのだ。

私がバイトに入る時、大体一緒に入る上司は男性だ(単に女性が少ない職場なだけだが)。そしてクレーマーも大体男であることが多い。私の経験上は、だが。彼らは女性のいかにもバイト、な私を見るとかなり攻撃的に言葉をぶつけてくる。一応は笑顔で対応するも、まったく聞かずに文句ばかり。そんな時に魔法の言葉を発動し、実際に男性店員がやってくると、途端に大人しくなる。なので私は、先輩には悪いと思いつつ、頻繁にこの方法を使う。

次にセクハラ男。小さいものから少しヒヤッとするものまで、色々なことがあった。特に強烈だった人がいて、その人はとてもタチの悪いナンパ男だった。

ある日やってきた新規のお客様で、夕方から閉店まで店内にいたのだが、閉店前、急に私に近づいてきた。

「あの…」

「はい、どうなさいましたか?」

「すみません、いきなりなんですが、かわいいですね」

「えっ」

いきなりなんなんだ。しかもこんな壁際で、退路がないじゃないか!

以前、別のセクハラ男にもよくかわいいねと言われて、その後嫌な思いをしていたので、私はその言葉に敏感だった。

引き攣った笑顔をなんとか抑え込みつつ、口を開く。

「それは、どうも…」

「あの、それで、良ければ連絡先を交換しませんか?」

やばいナンパだ!

「申し訳ございません。そういうことはできない規則となっておりますので…」

「そうですか…あ!バイト中だからダメなんですよね?じゃあ終わるまで待ってますから!」

「そういうこともできないんです」

「そうなんですね…どうしてもだめですか?」

「申し訳ございません」

「わかりました…じゃあまた会いにきますね!」

意味がわからん。

私はそのお客さんが帰った後、上司にありのまま起こったことを話した。とりあえずもしまた来たら対処を考えることになり、その日は怖いなあと思いつつ家に帰った。