
電子の世界で逢いましょう(大学院生 Reyoさん)
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『フリートライアル?』
「無料体験版ってこと」
PC作業の傍ら、僕たちはチャットソフトで話をする。
スマホを介さずに手軽に連絡が取れるのは、テレワークの利点の1つだろう。
『機能制限付きみたいだけど、このMMO』
「まぁ、そこは仕方ないけど。発売当初のシナリオは全部遊べるらしいから、とりあえず触ってみない?」
僕も彼女も、それなりのゲーマーだ。
特にハンティングアクションやRPGの類には一通り手を付けていて、正月ごろにはPCゲームをプレイするためにPCを買い替えもしていた。今から振り返ればまさに天祐というやつだろう。
スペック面での問題はなく、月額課金制だからとなんとなく敬遠していたタイトルが機能制限付きとはいえ無料プレイ可能。しかも、期間の制限もなし。
僕にそのゲームを勧めた友人を教師役に一通りのセットアップを済ませ、ゲームを起動してまず驚いたのは……景色の精密さだった。
決まり切ったフィールドを行き来するだけのアクションゲームではありえないほどに作り込まれた世界。
あるいは、当時の僕がハマり込んでいたFPSゲームではスペック限界から犠牲にせざるをえなかった美麗な光景。
ゲーム中で操作するアバターを作るときですら衝撃を受けたというのに、本編が始まればその驚きは倍では済まない。
くるくると表情を変えるキャラクターたち。
フルCG映画で見るような光景を自由に行き来できる自由度の高さ。
MMOというジャンルに触れるのが数年ぶりなこともあって、技術の進歩に度肝を抜かれたとも言える。
『凄いね、これ』
「うん」
彼女のテキストチャットに、僕はその2文字を返すのが精いっぱいだった。
そして、無料版だからそう長くは遊べないだろうという予想は嬉しいことに裏切られることとなる。
仕事にせよゲームにせよ、やりたいことがハッキリしていたり、次のタスクが明示されていたりすると捗りやすいという経験はあるだろうか?
そのゲームは無料版だというのに『次はこういうストーリーがあるよ!』とか『今の君のキャラクターではこのコンテンツに挑めるよ!』という提示を途切らせず、電子の世界はどんどんと広がりアバターの目を通して僕らを惹きこんだ。
ようはゲーム設計者の思うつぼに嵌ったということなのだが、気にもならない。
途絶えがちだった連絡もゲームをきっかけに頻度が回復。加えて、ゲーム操作を邪魔しないようにテキストチャットは音声通話に置き換わり、自然と話す時間も増えた。
やれあのムービーが綺麗だっただの、どこそこの街で出て来たキャラクターがツボだのと、シナリオについて感想を言い合いながら毎日1時間くらいを電子の世界で過ごす。
休みの日ともなれば、だらだらと通話をしながら3時間以上ゲームに没頭することもあった。
アバターでチームを組んでいればなんとなく一緒に居る気分になれたし、なによりそのためには片道3時間の旅程も不要なのだ。