• HOME
  • イベント
  • バースデーランウェイ主催者 ナカハラユウカのはじまり

バースデーランウェイ主催者 ナカハラユウカのはじまり

モワッとした湿気を含む風を率いて、いつもの通勤で使う地下鉄の電車がホームに入ってくる。

私は新しい会社もなんか違うな…私には合ってないんだろうなとぼんやり思いながら、電車に揺られ、地下鉄の車窓をボーっと眺めていた。

いつもの、変わらない地下鉄の車窓。

いつもと変わらない単純作業の仕事に向かう自分。

もう仕事、続けられへんやろなぁ

私はいつも転職をしようと思ったとき、いつもだったら次何をしようとワクワクしていた。

でも今回は違った。

私ももう25歳。周りはそれぞれ一つのことを続けて“何者”かになっているのに私は…

またゼロからなのか…仕事どうなるのかな。

地下鉄の代わり映えのない無機質な壁の景色を、窓越しに見つめながら考えた。

私、一生繰り返しなのかな…

私は、以前からどこかに勤めて働き続けるということのイメージができなくて、ずっと違和感を抱えていた。自分で何かしたいと、いつもメモ帳を持ち歩いていて、思いついたアイデアを書き留めていた。メモ帳にはこんなアプリがあったらとか、サービスとか沢山のアイデアがあった。

私は仕事とかを抜きにして、自分が一番幸せな瞬間って何だろうと考えた。

ガタン、ゴトン

未だ目的地の見えない私を乗せて、電車は御構い無しに目的地に向かって走り続けていた。

進む電車とは真逆に私は過去を振り返ってみる。

『ユウカを見てたら、なんでもできそうな気がしてくる』

新しいことをポンポンやる私を見てそんなことを言われた事があった。

私は物事が続かないことにコンプレックスを持っていたけど、そんな私を見て勇気を出してくれる友達もいた。

『こんなことしようと思うんだよね』

と、キラキラした目で、友達が一歩踏み出そうとする瞬間。

自分がそのきっかけになっている時、私はとても嬉しいと幸せに感じていた。

ガタンッ

駅につき、ドアが開き人の流れが、空気が変わる。

新しい風がすっと車内に入り込んでくる。

あぁ…と私はようやく気がついた。

私の最終の目的は“誰か”にあるんや…

今まで私は自分が何かになること、自分が何かすることを重要視していた。だけど自分が何かした先に、誰かが一歩踏み出せる、そういう瞬間を私は作りたい。私が本当に幸せを感じる瞬間は“誰か”の感動なんだ。

まるで引力に引っ張られるみたいに、ストンと腑に落ちた気がした。

私の答えはびっくりするくらい簡単だったのだ。

自分が何かすることで誰かを感動させることが私にとっての幸せで、自分が何かをすることや何かになることは、誰かを感動させることの“手段”に過ぎない。手段を一つに縛られる必要もない。

思い返すと、私はこんなことをしていたら格好いいかもという理由で自分のしたいことを決めていた。自分の好きなことを自分で見つけられていなかった。

だから、ギターをやっていても、自分にはこれといった趣味がないと思っていたし、一つのことをずっと続けられないコンプレックスから、もう必要のないギターに執着したりしていた。私は自分で何か表現することに異常な憧れを抱いていた。

そういう人がすごいと思っていたし、格好いいと思っていたからだ。

自分にずっと向き合っていたつもりだったけど、意外とそういう機会はなかなかないのかもしれない。

ずっと書き溜めて、温めていたアイデア帳を思い出しながら、考えを巡らせる。

私のできることで、一般の人も参加できるそんなイベント…

思い描く未来をテーマにランウェイショーを開催するのはどうだろう。

モデルさんは一般の人で、ファッションを見せるショーではなく、モデルさんの人生にスポットを当てたショー。

これは私がやらないといけないと直感的に思った。

やろう!やりたい!

ガタンッと電車が揺れ、体が、心が大きく揺れる。

プシューッ

いつの間にか電車は私が降りる駅に、目的地に着いて、ドアが開いた。

私は乗った時と違う、晴れやかなワクワクした気持ちで弾むように電車を降りた。

梅雨の曇り空を見上げながら、自分の心の中の雲が少しずつ晴れていく気がした。