編集長 田中智崇のはじまり
日本とは異なる生活は、とても刺激的でありとても魅力的だった。
多くの若い力が溢れていて、何を見ても新鮮で、キラキラ輝いて見えた。
必死に生活に慣れようとするにつれ、がむしゃらに心をすり減らした自分が、少しずつ取り戻されていくように感じた。
一年の開発を経て、現地のエンジニアと製造業とIT、そして一般の消費者を繋ぐ、工場見学や加工体験をチケットで販売するサービスを世界で初めて開始することになった。
超えるのが困難なように思われた壁は、一人の人物との出会いによって、いつの間にか取り払われ、多くの方々とのかけがえのない出会いによって、形になった瞬間でもあった。
何十年も生きてきたのに、たった2年ぐらいの間に、私の環境が目まぐるしく変わった。
いつの間にか遠かった世界との距離がぐっと近くなった。
そして多くの失敗を経験した。
理由は色々あるが、単純に力不足はあった。
でも、力以上に、自分が完全に責任を取る立場で臨んでいなかったことで甘さが出たと、私は感じていた。
特定の業界を良くしたいのであれば、社会全体を良くしなければならない。
自分が責任を取る立場で、自分が感じた社会的課題に切り込むビジネスをしたい。
2017年7月
私はMany合同会社を設立した。
父が倒れてから5年、父と同じ経営者の道を歩み始めた。
人生に”もしも”は無いが、もし、あの時に緑川さんに出会えなかったら、私の人生は180度、別の物になっていただろう。
しかしながら、はじまりは 本当は一つだけではない。
多くの出会いがはじまり、繋がって、繋がって、化学変化のように、自分でもびっくりするような変化をもたらしていく。
日々出会うこと、はじまりは日々起こっている。
きっと明日も何かのはじまりに遭遇するかもしれない。
私は明日、どんな“はじまり”に出会うのだろう。
今年も変わらず父の日がやってきた。
いつものように実家に顔を出し、好きだったお菓子を父の目の前に置いた。
『会社を経営するようになってもうすぐ3年だよ』
私は心の中でつぶやいた。
父はどう思っているだろうか。
桜に囲まれた父の写真は、相変わらず にこやかに微笑んでいた。
今日も遠くで5時を知らせる鐘が、響き渡っていた。
絶妙なグラデェーションの空に
晴れ晴れと響き渡る、キレイな音色だった。