編集長 田中智崇のはじまり
2013年3月3日 ひな祭りの日
私は、横浜で開催された〝緑川さん〟という人物の誕生日会に参加していた。
〝緑川さん〟は製造業の社長さん、私はIT企業に勤める普通のサラリーマン。
そして、私は、〝緑川さん〟に会ったことがない。話したこともない。
それなのに何故か、彼の特別な日に運命に導かれるように、この会場までたどり着いていた。
大げさかもしれないが、ここから何かが始まる気がしていた。
行きづまっていたものが、ここから怒涛のように動き出した。
私は田中 智崇
名前は歴代の天皇を参考に、恐らく立派な人になるよう願いを込められて付けられたようだ。
大学を卒業し、就職、ごく一般的なサラリーマンとして周りに恵まれ、割と平凡でも、それなりに充実した人生を送ってきた。
それが一転、予想もしない天変地異があるものだ。
2012年11月 休日出勤の日曜日。
どこからかふわっと金木犀の香りがしていた。
兄貴から一本の電話。
「親父が、事務所の外階段から落ちて 意識がない!」
突然の出来事。自分の意識も飛びそうな心持ちで、すぐ病院に向かった。
「意識がなく、今夜が山場です。ご親族もお呼び下さい。」
ドクターが静かに、恐れていた現実を告げた。
まるでドラマを見ているようだ、と頭の片隅で思った。でもこれは紛れもない現実だ。
ただ、祈るだけ、何もできない。色んな感情が入り乱れ、無力に感じた。
私達は、ただ祈りながら 空が少しずつ白けていくのをぼんやり見守った。
そして夜明け 父が一命を取り留めた。
そして それは私達の未知の幕開けでもあった。