マジシャン Mintoのはじまり

そんなこんなで、有名マジシャンに弟子入り、そして初めての一人暮らしに加え、師匠の新しいお店、銀座のマジックバーで働くことがトントンと決まっていった。まさに目の前で未知への扉がバンバン開いていく感じだった。突如湧いた自分に全くないもの。今思うと、そういうものはやる事になったりやりたくなったりする。自分ができることだけやってるとあんまり成長がないし。たまたま降ってくるものが自分にとって大事なものになるっていう傾向がある気がする。

こうして師匠の新しいお店が出来るまで、事務所のマジックスクールに通いつつ、いつイベントが入っても師匠について行けるようにがっちりしたバイトはできないので、登録制のようなバイトを4つか5つ掛け持ちし、オープンまでワクワクドキドキな日々を過ごした。
そして満を辞してお店がオープン!!初めてのバー業務。初めての昼夜逆転。初めての銀座。さっぱり身についていないマジック…。カウンターとソファ席、小さなステージのあるお店で私はフロアー業務全般&一日に数回行われるステージショーの音響照明業務を任されることになった。
不安要素はてんこ盛り♪♪
正直何から手をつけたらいいのかも分からな~~い!!

接客にマジックに覚えることいっっぱぁ〜い。毎日がスリリングで頭が満腹な日々。

そんな感じでお店に入って、まだ数日たったある日。いつになったら人前でマジックができる日が来るのやらだったが、その日は突然やってきた。

「紹介するからおいで」
支配人に言われるがままついていき、まずはお客様にご挨拶。
「どうぞ、よろしくお願いします!」
目の前には、スーツ姿の男性お二人。
お一人は、恰幅がよく貫禄ある紳士で、目の奥に優しさと温かさのある素敵なおじ様と言う感じ。もうお一人は、落ち着きと優しさと親しみのある働き盛りな感じ。
挨拶したのも束の間ちょっと席を外れたその時、支配人から衝撃の一言。
「せっかくだから、マジック見てもらっておいで♪」
私は急速冷凍されたみたいに固まった。なんて言った?!と支配人の言葉がグルグルめぐる。支配人はそんな私を横目に、

「今、出来るのでいいから!じゃ、話しておくからね」
うぇ!!待って~~~~!!
私は、思いもかけない急な事態に気を失いそうになった。まるで今いる景色に突然霞のかかったような気がしてテーブルをぼんやり見つめた。夢…じゃないのね〜これ!!

あぁ…灰皿の上に横たわる吸殻になりたい…。人様の前でマジックをしたことなんてほぼ皆無。おまけに最近は、フロアーのお仕事やら音響やら覚えなければいけないことだらけでカードなんて何日も触ってない!!
でももう、やるしかない!
カードを片手に、いざ自分を待つお客様の目の前に立った。
「マッジッックを…ハイ、やらせて頂きます…」
ド緊張の面持ちで、どうにかこうにか。でも、会話にも説明にもなってない。
「このカードをですね…こんな感じ…ええ…切ります…」
なんとか現象はどうにか起きて、何度も同じマジックを過去に見たことのあるお客様だったから、何をやりたいかは分かってもらうことは出来たようだった。
でも、マジックを見ることに慣れていない方だったら、『はっ?あっそう。確かに当たったね。確かに変わったね。で?』みたいな事になっていたかも! 怖っ!
マジックを不思議に見せるも、楽しく見せるもやり方しだいなんだなと実感。
「今度はもっと、力を抜いてね。リラックスしてやってみればいいんじゃない?」

お客様は、しどろもどろにマジックをする私を終始温かく見守ってくださって、にこやかにこう言ってくださった。
やさしい(涙)言葉をかけてくださって『ごめんなさいっっ!!私、絶対がんばりますから!!』と心に固く固く誓った。
何も分からず、何も掴めないまま、偶然と勘違いとインスピレーションで飛び込んだマジックの世界。
そこでフラフラの、クタクタの、クルクルになりながらも(笑)
どうにかがむしゃらに走り続けてこれたのは、やっぱりなんといっても、お客様の笑顔のおかげ。
当時、よく自分に言い聞かせていた言葉が“お客様が楽しければOK!!”
マジックが出来なくても、『いらっしゃいませ~』 『ありがとうございました』
の挨拶は、誰よりも元気よく心を込めて言おう!!
笑うかどには福来る。まずは自分が笑うぞ~!いつも笑顔で笑顔で!

そんなこんなでバーで5年、私はテレビや結婚式、イベントなどでマジックを披露できるようになり、お店から独立して仕事を受けるのに屋号がある方が便利だったので、個人事業主として“はごろも”をスタートすることになった。“はッピーな・ご縁で・ろう若男女・もりあげます”の頭文字を取って“はごろも”。マジックを中心にいろんなパフォーマーを集めて企画実行する総合エンターテインメント集団として活動を始めた。