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SainoMedia 短編ドキュメンタリー小説コンテスト(学生)の大賞発表

2021年度 SainoMedia 短編ドキュメンタリー小説コンテスト(学生)について、大賞作品を選考しました。

厳正なる審査の結果、

大学生 飯塚 帳さんの「私が私であるために」が大賞を受賞しました。

以下の通り、選考理由をお伝えさせていただきます。


「私が私であるために」は他の方と同様自分を中心に書きながらも読み手にも自分らしく生きていいんだという勇気を与えてくれるところが決め手でした。また、誰もが少なからず持つコンプレックスをテーマにしたのも多くの人が共感するのではと思った次第です。 小説に限らず多くの作品は自己表現から始まりますが、そのベクトルが相手を感動させたり気付かせたりする方へ向いた時、作品に強さだけではない要素が生まれると思っています。この作品は他の作品と比べた時に、より多くの人のココロに影響を与えてくれるものだと感じました。


また、特別審査員である絵本作家 塚本ユージ様から各作品の総評を伺っておりますので、以下の通り、掲載させていただきます。


◆私が私であるために(大学生 飯塚 帳さん)

人は過去の体験からうまれた思い込みをいくつも持っていて、その人の行動や思考のよりどころになって行きます。ただそれは自分でつくったものなので、自分で作り直すこともできます。この流れが事実とともに読み物としてとてもうまく表現された作品でした。

自分を好きになれなかった飯塚さんが、コロナという環境の変化をきっかけに行動や思考が変わり、自分を好きになるという「セルフイメージ」まで変わってしまう流れが非常に興味深く読めました。

きっかけやチャンスは自分で見つけることも作り出すこともできる、自分は自分で変えられる。そんな強く説得力あるメッセージ、たくさんの人に勇気を与えてくれる作品だと思います。


◆電子の世界で逢いましょう(大学院生 Reyoさん)

おもしろい作品でした。アバターの方が本人より本人を感じるということを聞いたことがあり、これがいわゆるもうひとつの現実なのかなと思いながら読ませていただきました。Reyoさんの作品を読み、心は物理的な距離を乗り越えてつながれることを改めて実感しました。

五感のすべてを電子の世界を通して使うことはできませんが、目に見えないきづなと同じで、僕たちは大切な人と心で繋がっている。それを今は電子の世界、アバターという手段を通して実感しているだけ。目に見えないものがいかに多いか、そしてそれこそが人にとって大切なことだとうことを考えさせられました。モノからココロの時代へ、まさに然るべき結果として今の世界が準備されている、想像力を大きく膨らませてくれる作品でした。


◆コロナ禍ではじめたゲームセンターでのアルバイト(専門学校生 京さん)

ゲームセンターで様々な人との接客をがんばっている前向きな京さんの姿が想像できました。ナンパ男のくだりは思わず笑ってしまいましたが…。バイトという体験を通して様々な想いを創造し味わえる感受性豊かな京さん、ひとつの出来事に対して前向きに捉えることのできる魅力ある人なのだと思います。コロナには誰もが振り回されていますが、京さんはきっとどんな状況だろうと、自分で豊かな毎日をデザインできる力を持っているのではないだろうか。読後そんな印象を持ち僕も前向きな気持になれました。「この経験がきっと、これからの私のためになると信じている」最後のこのことばをいつでもポケットに入れておいて欲しい。そう願っています。


◆私が見つけたコロナ禍の推し(大学生 ぽむちさん)

ぽむちさんの作品を読んでふと思ったことがあります。それは、コロナ渦でSNSやネットがなかったら人はどんな生活をしていたのだろう。また、コロナ渦で新しい人や新しい経験との出合いを見つけた人はどのくらいいるのだろうか。ぽむちさんはコロナがなくてもいつか出合っていたかもしれない「ゲーム実況」ですが、このタイミングで出合ったことには何かしらの意味があるのだと思います。様々な新しい出合いが将来すべてつながりぽむちさんにしかできない何かが創造されるのだと感じて楽しみになりました。ご自身の夢中には意味があります。大切にしてくださいね。


◆劇団SnowGrouse はじまりのstory(大学生 音渡津 暁美さん)

音渡津さんのミュージカルに対する熱い想いが終始伝わってきた作品でした。

実際の話とはいえ、映画のようなストーリーで音渡津さん含めメンバーの方たちを想像すると近い将来、夢が実現するのだろうなと確信してしまいます。そんな勢いと想いを文章から感じました。後半にあった「私たちはただ演じているのではなく役を生きているのだ」という言葉は音渡津さんの確信に満ちた言葉を創っているひとつの要素なのではないでしょうか。ミュージカルは総合芸術だと思いますが、そもそも芸術は日常からうまれるものであり、僕たちの日常と切り離されたものではありません。

だからもっと身近に多くの人がミュージカルを日常に取り込める日が来ると僕も信じています。応援しています。


◆ダレカの物語(大学生 クロさん)

出だしの小説部分から現実に移行する流れが最初はわからなかったのですが、読み進めていく中で点と点がつながっていくような感覚になり読後とても気持ちが良かったです。構成を理解した後に改めて読むと、この魅力はさらに引き立ち、物語にパンチあるユーモアを効かせていて読者を楽しませてくれます。

物書きとして共感できるとことが多く、中でも「苦痛だけど描きたい」という行動はまさにクロさんの価値観につながる部分なのではないでしょうか。それを自身で気づいた言葉「この物語を紡ぐことが最優先、苦痛だけど楽しい小説書きに夢中」という部分は自分のスキを知っているとても幸せな人のセリフだと思います。


◆リスタート(高校生 朝田さやかさん)

前半から後半にかけての雪の心の動きが言葉の使い方と相まって惹きつけられました。

最後の「バレー、好きだな」に彼女の今の気持ちが集約されているのではないでしょうか。

人は経験や体験を通じて、ひとつの出来事に対して独自の意味付けしその人の信念になります。雪も彼女なりの信念があり、どこかのタイミングでそれが自身の行動のブレーキになってしまっていたのだと思います。

人がこの信念に気づき乗り越えるにはやはり、人との関わりや新しい体験が必要です。

物語の中では、メンバーから誘われバレーを再開することで、彼女のブレーキになっていた信念がアクセルに変わっていく様子が鮮明に伝わりました。所々にあるメタファー(比喩)も朝田さんの感性がキラリと輝いていて一気に読んでしまいました。


◆知らない、大人たちへ(高校生 龍 香好さん)

はじめに、龍さんが今の想いをここに文章化したこと自体が、表現であり演劇でもあると感じました。

少なくとも僕は龍さんの飾らない想いや状況をひとつの表現作品としてダイレクトに受け取り、共感し賛同し悩ましい気持ちになりました。これは僕がある舞台を観客として観る時と同じ感覚です。ご本人が意図したことかはわかりませんが、表現は日常・非日常と区分けせずに、本人次第でいかようにもできるということを気付かせてもらった気がします。僕自身、表現する立場として龍さんのようにどんな状況だろうと柔軟でクリエイティブな姿勢で自分の人生を描いていきたいと改めて考えさせられた素敵な作品です。タイトルもメッセージ性と強さがあって好きです。