マジシャン Mintoのはじまり
煌びやかに乱立する東京のビルの一角。私は一階で携帯電話を握り締めていた。
とうとう、ここまで来てしまった!
このエレベーターを上がったら、そこはもうマジシャン事務所!!
全くもって未知なる場所…どんな世界が広がっているのだろう?♪
何が起こるか分からない。もしかしてもう帰って来れなかったりして…。
念のため、友人に『何かあったら後はよろしく』みたいな事を言い残して私はエレベーターのボタンをえいやっと押した。
事務所に着くと奥の応接室に通され、ドアがバタンと閉まり、私のドキドキ指数は一段と高まった。いま目の前にいるのはおそらく電話で話をしてくれた人だろう。
「何がしたい?どうなりたいと思ってるの?」
椅子を勧めながらその事務所の男性が言った。
まずは、この誤解を解かなければっ!!と私なりに事の次第を説明し始めた。
「実は私、マジックの事なんて、何も分からなくて…。ブライダル司会の為に、マジックを勉強してみようかなと軽~い気持ちで問い合わせてみたんです。」
それとホテルのアルバイト募集と勘違いした事をがんばって説明したつもりだったが、結局上手く伝わらなかったのか(?)、返ってきたのはこれまたなぜか予想外の言葉だった。
「勉強したいなら、かばん持ちから始める?」
ただ、この“予想外”とか“未知なる世界”といった展開にめっぽう弱い私。グングン話に引き込まれていった。
せっかくだから、とりあえずこの流れに乗ってみようか…。
マジックもやってみたら面白いかもしれない…。
「TVのマジック番組とか、見たことあるならこれも見てるかな?」
そう言っていそいそと用意してくれたビデオが、テレビで放送されたという“マジックバトル選手権”のVTRだった。
この番組、当時はかなり話題になっていたようだけど、残念ながら私はその番組はもちろん、出演しているマジシャン=目の前で話をしていた男性の事も全く知らなかった。
私はテレビ画面と目の前にいる男性を交互に見て、ドキドキする心臓を抑えつつ、ようやく声に出して言った。
「―このTVに出ている方が、あなた様?」
…何とも失礼な訪問者だった。
私は緊張やら何やらで半分気絶状態に陥っていたので、記憶が定かではないのが残念だったけど、それでも衝撃的な内容だった感覚は覚えている。
マジックの不思議さに衝撃を受けたというよりも、トークや演出、観客との絡みによって生まれるエンターテイメント性に私は心を打たれていた。
その後に、『遊びにおいで』と誘われたマジックバーで私はさらにマジックの魅力にどっぷり魅了されてしまった。
こんな世界があるんだぁ。なんて…なんて楽しい世界なんだろう…。
マジックってただ不思議ってイメージだったけどそういうものじゃなくて、その不思議をどんな風に楽しく見せるか、お客さんとの掛け合いとかやりとりとか、人を楽しませるお笑いのような要素があるというか…。私はそういうところにものすごく興味が湧いて、あまりの楽しい世界に驚愕した。