マジシャン Mintoのはじまり

3年後、ようやくこの日がやってきた。私は高校生になった。新しい制服。新しい友達。女子校だったけど、割と部活動が盛んで、それぞれ部活を楽しんでいる、宝塚のような雰囲気で、たまたまチアリーディングやダンスに力を入れている学校だった。私は念願のダンス部に入部し、ショートカットの刈り上げにしたような気合の入った男の子みたいな髪型にして、朝練、早弁からの昼練に午後練とダンスに明け暮れた。楽しい日々もあっという間。進路を考え始めた時、ダンスとかミュージカルが好きという気持ちがあったので、高校を卒業したら、そういう道に進みたいと思っていた。

でも『せめて短大は出なさい』という親の言葉もあり、女子短大に進むことにした。学科は日本文学科。たまたま受かったところが、ラッキーな事に蓋を開けてみたら自分の大好きなミュージカルや小説などについて学ぶ学科だった。とはいえ短大まで2時間半。私は遅刻の常習になっていた。確信犯なとこはあったけど。でも遅刻したおかげで、同じ遅刻魔のミュージカル好きな子と友達になれた。大学にはミュージカル部があったけどなんだか違うなぁとしっくりこなくて…そんな時、友達が他の大学のミュージカル部に入ることになって観に行くことになった。

私は一目で心を奪われてしまった。舞台から放たれる眩しい光が私の瞳にキラッキラと映りこんで、演者の熱量がバシバシッと伝わり、私の心を揺さぶった。

めちゃくちゃいい!!私もこの中に入りたい!

でも…。他の大学のサークルに入るのなんて…。

私は恐縮してしまって、観ているだけでいいかなぁと無理やり自分を納得させた。でもやっぱりあの感動とドキドキを感じたいと、度々その大学のミュージカルを観にいった。

そのころ“音楽座”という大好きな劇団もできて、時間ができるとよく観に行った。素敵なミュージカル作品を観ると、私って本当にミュージカルが好きなんだなとつくづく思った。

そんな短大生活も気がつくと残り少なくなってきていた。私はやっぱりあの他大のミュージカル部に入るのを諦められず、在籍半年という異例の短さの他大のミュージカル部員になった。やっぱり観客として観ている景色とは違って、練習がもう楽しくって楽しくて。入ってから半年とはいえ、1公演だけ参加することができた。

その頃にはミュージカル愛がグングン高まっていて、卒業後はやっぱりそれに関わる仕事がしたいと強く思うようになっていた。でも、時は就職超氷河期。いざ就活が始まるとあちこちで就活の苦労が聞こえてきていた。これを経験せずに好きなことを仕事になんて…と私もみんなと同じように就活を張り切った。

どうせなら大きいものを売りたいな。

私は家が好きだったので、住宅メーカーに入社することにした。

職種は一般事務。仕事終わりアフター5でダンスなどのレッスンを受けられるようにこの職種を選んだ…つもりだった。でも入社してしばらくするとその思惑はすぐに幻となってしまった。配属は一番忙しい部署の営業の事務。いつも笑顔で、仕事をバシバシさばいていく先輩がいてくれたおかげで、私はいろんな意味で助けられたけど、その先輩が産休に入ると、少し席を離れるだけで私の机はあっという間に書類が山積み。新人で不器用で事務に向いているとも言えない私に、自分の範囲以外の仕事もたっくさん回ってくる。もう私の目も回るくらいめまぐるしい日々だった。就職してからも、大好きなダンスレッスンに通っていたけど、残業続きでレッスンにも行けなくなっていた。

心が、体が悲鳴を上げ始めた。神経性胃炎で歩くのもままならなくなった。入社の時は暖かく優しい日差しが降り注いでいたのに、気づいたら枯葉が舞い散って乾燥した風が頬をかすめる季節になっていた。入社して6ヶ月。私は会社を退社した。