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アニメーション作家 高橋生也のはじまり

僕はあっという間に定番な浪人生になった。

予備校に通い、絵画の腕を磨きながら、深夜にコンビニでアルバイトをした。

浪人生活は、同じ世界の繰り返しだった。淡々としたグレーの毎日。

僕は度々、画材を買いに東京へ行き、色とりどりの画材や、色とりどりの人、建物に刺激をもらいに出かけた。

そんな生活の中、Spike Jonesという監督をたまたま知った。

もともとミュージックビデオなどの監督で、僕の好きな世界観の映像を撮る監督だった。

ちょうど監督が手がけた短編映画の日本語版発売記念として、渋谷で展示が行われることを知った。

初夏のある日。

僕は東京に画材とその展示を見に出かけた。

初夏だというのに、妙に暑さを感じる。

東京ならではの色んな刺激が集まっているからなのか、それとも僕が浪人生で所在無さげだからなのか、、

ゆらゆら

僕の立場のように地面が揺れているようだ。

渋谷駅から歩いて、交差点の角に、でっかいイケイケのロゴのギャラリーが見えてきた。

DIESEL ART GALLERY

ディーゼル アート ギャラリー

アパレル会社がやっているこのギャラリーは、なかなか斬新な展示があることで知られている。

僕もたまに刺激を求め、足を運ぶこともあった。

ギャラリーは地下にあり、僕はトントンと階段を降りていった。

地上の排気ガスのモワッとした淀んだ空気から、階段の途中すうっと澄んだ空気に変わる。

平日だったからか、ギャラリーは貸切状態だった。

こんな真昼間に出歩ける、浪人生の特権。展示をゆっくり見ることができる。

展示は、映画の写真や絵コンテなどがぐるっと壁に展示され、真ん中らへんに登場人物、いや人ではない生き物たちのオブジェが置かれていた。

また、作品作りのメイキングと短編の映画の上映という、なかなか見応えのある展示会だった。

展示などを一通り見て、僕はポツンと椅子に腰掛けた。

メイキングですでに僕の心はわしづかみにされた。

これは僕の憧れの作業風景だ。

僕は一瞬で、その世界に引き込まれた。

少し褪せたような柔らかな色の映像。

優しく紡ぎだされる、音楽。

硬い体のロボットの柔らかな心の描写。

映画は32分ほどのロボットのラブストーリー。

内容はよくあるボーイミーツガールの話で、実にシンプルだ。

しかもロボットの為、細かい人間のような表情がない。でも、人間が表現するより、表情は豊かだし、優しさや暖かさが伝わる。

硬いハードなロボットなのに、柔らかくて、冷たいはずなのに暖かい。

目の動き、物語、細部にもの凄いこだわりが感じられ、シンプルでもとても魅力的な作品になっていた。

あぁ、、こういうの、わかるなぁ

僕は噛みしめるように、心の深く、深くで、そう思った。

僕もこういうものが作れるんじゃないか

これは直感だった。

こういうものを僕も作りたい

僕はまるで雲に乗ったように夢心地のまま、ふわふわっとギャラリーを出た。

さわさわと木が揺れて、自分の心の中を爽やかな風が通り抜けていくようだった。

ぶらぶらと歩いて、ぐるぐる回り、なんだか気になって、気づいたら何かを確かめるようにまたギャラリーに戻っていた。

さっきと同じ椅子に迷わず座って、僕は決めた。

自分も この道をめざそう

僕は受験の学科の希望を変えることにした。

先端芸術表現学科。

この学科なら、映像もできる。

予備校では作家の軸を作るべく、立体作品や絵画など、一年かけて作品を作った。

キーンと冷たい冬の日、ついに学科を変えての再受験の日がやってきた。

面接の時、教授から自分の作品の評価を直接受ける。

「君の作品はガラクタだね」

教授はさらっと言った。

「なるほどー」

僕はなぜかそう答えた。

ちっとも納得いってないし、内心なんだこいつと毒気ついていたのに。

今思えば、何を言われても動じないところを見るための、教授の作戦だったのかもしれないが、僕はようやく合格することができた。