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ミニチュア陶芸家 市川智章のはじまり

せっかくなら英語を使える仕事をしたいと、27歳で外国語の説明書などを制作する会社に入社した。

くるくる、カタッ。自分の中の何かが止まった。

僕は大体の大人がなる みんなと同じ、“会社員”になった。

就職してからは、英語の他に、12言語もの翻訳を担当し、訳のわからない造形のような言語に四苦八苦する日々だった。

会社員という“何者”かにはなった。

でも自分にはずっとやり続けたい‘核’のようなものがないと感じていた。

本当は自分は何をしたいのか。

くるっ くるっ。

自分探しの答え探しがまた回り出していた。

とりあえず手当たり次第、身近な自己啓発本を読み漁って、闇雲に資格試験の勉強などもしてみた。

どれもこれも違う。

無理くりするのはどうやら僕には向いていなかったようだ。

そんな日々を送っていた29歳の1月

大好きな祖父が、風邪をこじらせ、肺炎になってわずか一週間であっという間に天国へ行ってしまった。

90歳過ぎても驚くほど元気で、毎日庭いじりをしていた祖父。

こんな日がくるなんて、、

祖父は盆栽と陶芸をこよなく愛していた。

特に陶芸は、30代からずっと続けていたらしく、なかなかの腕前だったようだ。

定年後には、老人ホームの責任者になり、そこで陶芸を教えていた。

今となっては、ぼんやりした記憶しかないが、子供の頃、祖父と一緒に大きな陶芸の窯の中に入ったことがあった。

そこには焼きあがったたくさんの器たちが、綺麗に並んでいた。

これが覚えている陶芸との初めての出会い。

幼かった僕は、盆栽も陶芸もおじいさんの趣味のようで、当時は全く興味がなかった。

『祖父が好きだった陶芸ってどんなものなんだろう』