マジシャン Mintoのはじまり

会社としてはとてもいい会社だった。みんな優しくしてくれたし。でも私は重要なことに気がついた。

私は何かやりたいことのためにこれをするってのができない。全力でできることをやらなきゃムリで、本気でやりたいことじゃない事に時間を使うのものストレスになってしまう。

やっぱり好きなことをミュージカルとか踊るとかを仕事にして全力でやりたい!!

私はフリーターになって、いくつものアルバイトを掛け持ちし、毎日レッスンに通う日々が始まった。フレンチレストランでの接客やティッシュ配り、時間がある限りレッスン費を稼ぐためバイトに勤しんだ。

「こんにちは〜」

私はにこやかな声でタイミングを読んで通行人にチラシやティッシュを差し出す。

ただのチラシやティッシュ配りのバイトもめちゃくちゃいいものを配っているように、ハッピーになれるように配った。そうすると受け取った方が「さっきはありがとね」みたいな感じで戻ってきて、カフェや映画の優待券をいただいたり。まるでわらしべ長者みたいなこともあった。

フレンチレストランでのアルバイトでは、接客以外にもブライダルフェアなどで、純白的なドレスを着たり、珍しいものだと十二単も着たりした。フレンチはお料理がホントにキレイで、そこにストーリーがある。私はどの席にどのタイミングでお酒やお料理を出すかをコントロールする黒服の仕事までするようになった。マジシャンもお客様の状況を見ながらどのタイミングでマジックをするのかが重要。この時の経験が、今のマジックにも生きているのかもしれない。

好きなことをする生活。充実すると思いきや…私の中でなんとも言えないモヤモヤが少しずつ大きくなっていった。

バイトとレッスンで満タンな毎日。友達や家族との時間も取れないようになって…しかも友達と会えないのに、舞台の公演の時はチケットをさばかなくちゃいけない。

その頃私が大好きだった音楽座も解散してしまった。どこよりも大好きな劇団。もうここにしか入りたくないと思っていたくらい。

私は心の中で天秤にかけた。

大切な人と過ごす時間とバイトとレッスン漬けの日々…。

私の守りたいものは…。

好きなことをしながら、大切な人と過ごす時間も大事にすることはできないかな…。

私は好きなダンスもできて、新しいものも学べるもの…と考えて地元で有名な海のテーマパーク“恋する遊び島”でショーのお姉さんとして就職することにした。