やわらかん’s cafe オーナー 鈴木公子のはじまり

私は4歳から絵画教室に通っていて、小学生の頃から美大に行きたいとずっと思っていたので、高校から進路を決める時、絵が描きたいと美術大学の油絵科に進学することにした。

卒業後は、絶対に会社に就職が我が家のルールだったので、どうせなら面白いことをしたいとおもちゃ会社に就職した。

企画開発がやりたいという希望が通って、配属先はファミリーチームという、景品などの開発チームに配属された。

6〜7割がぬいぐるみ、3〜4割が雑貨という、ぬいぐるみ大好きな私にとっては夢のような仕事だった。ひたすら面白い日々。社会人になって人間の基礎を叩き込まれたような、充実した毎日だった。

休日には近くにあった大好きな葛西臨海水族園によく出かけた。

ある時、お土産売り場を覗くと、カレイのぬいぐるみを見つけた。

父は魚釣りが大好きで、居間の天井に木更津沖で釣った大きな45センチのマコカレイの魚拓があったのを思い出し、これを父にプレゼントしたら喜ぶかも!と私は、父のプレゼントとして、家に連れて帰ることにした。

「カレイだよ!お父さんあげる」

父にカレイのぬいぐるみを差し出すと

「お、ありがとう」

父はおもむろに受け取って、そのまま後ろにある本棚に、するっとカレイのぬいぐるみをまるで本のように差し込んだ。

カレイは平たいから、本棚にぴったりフィットしていた。

あれっ、まさかこのまま刺さったままなのでは、、と何週間ほど観察していたが、一向に父はぬいぐるみを愛でる気配を見せなかった。

やきもきした私は父に

「これ、あんまり可愛がってもらえないなら、私もらうね」

と、プレゼントしたのに自分のぬいぐるみとしてお迎えすることになった。

改めてよく見つめてみると、水族園で最も地味なんじゃないか、って魚をよくぞ商品化してくださった!と感動すると同時に、また作りが凝ってることに気がついた。

すごいポイント、まず本物のカレイそっくりな裏側。

生地も単色の茶色じゃなくて、複雑な色が混ざり合った茶色。自然の生き物らしさを表現している。

毛足もあって、なでごこちも抜群。

魚だからって、ツルツルの生地を使わないところがセンスあり。

ぬいぐるみとして生きていくために、この生地を選んでくれた開発者の愛情を感じる。

そして、ぬいぐるみの命とも言える目。

私、この優しい目、知ってる、、

くろめがちなこのおめめ、、目の周りのフェルト。

大好きな、大切な私の家族。

コッコちゃんのおめめ。

私は、平たいカレイのぬいぐるみを抱きしめた。

世の中に生まれてきてくれてありがとう!!

私はカレイのぬいぐるみを、まんま“カレイちゃん”と名ずけた。

それからは、寝るときもお出かけにもいつも一緒。

私の中で、父との思い出もあり、どんどんカレイちゃんが特別になっていった。

そのあと、あるときに魚拓が反対になっていることに気付き、カレイちゃんはカレイではなく、ヒラメだったことが判明したため、苗字的なものをつけて“ヒラメのカレイちゃん”という正式な名前になった。