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知らない、大人たちへ(高校生 龍 香好さん)

本題はここではない。舞台は日常だから、人と近づくのが当たり前ということだ。他人と全く触れ合わない生活がどこに存在するというのか。確かに顧問の言うことも理解できる。むやみに近づくことでコロナ感染者を増やしてしまうかもしれない、自分が勤めている学校でクラスターを発生させてしまうかもしれない、全責任は自分が取らなければならない、諸々の恐怖心から、そのような言葉を発したのだろう。朗読劇ならまだしも、普通の演劇だ。私たちには役の日常を演じきるという義務がある。全て顧問のいうことを聞くわけにはいかない。
と、思ってしまうのだ。顧問にこんなことを思うのはやめたいと何度も思っている。でも、やっぱり言われるたびにそう思ってしまうのだ。

「ほんとコロナやだ」

突然、同輩がこんなことを言った。

「私も」

「別に不自由ってわけじゃないけどさ、コロナじゃなかったら、顧問にあんなこと言われないでも済むじゃん」

きっと、今地球上にいる全人類が思っていることだろう。もし、コロナなんか無ければ。普通の日常が、刻々と人の間を過ぎていったことだろう。感染症がこんなに恐ろしいことだとは梅雨知らず、平凡な毎日を送っていたに違いない。

私の気持ちとは裏腹に、空は真っ青で、雲ひとつない快晴が、もうかれこれ一週間以上続いている。登校時に乗る電車が、唯一の癒しだ。このまま終点まで、何も考えずに、ただ揺られていたい。そんなことをふと思ってしまう。頭の中が空っぽになったら、どんなに楽だろうか。ただ乗っていれば、いつのまにか終点についている。人生もそんなもんだろうと、一昨年までは思っていた。

私は、コロナを恨んでいる。こんな言い方では私が怖い人のように思えるかもしれないが。実際、コロナなんて大っ嫌いだし、そんなものなければいいのにと毎日思っている。だけど、これも人類の運命だったのだ。これまで自由に地球をいじって、自分のために生きてきた人間に対する罰。学生じゃなければ、こんな生活は想像できなかったんじゃないだろうか。その罰を受けるのは、私たちではないはずだ。好き勝手やってる大人が、何も考えないまま、ただ幸せそうに笑っているのは、どうも納得いかない。でもそれもきっと、人間として生まれた定めだ。私はただ、与えられた人生を、全力で生きていくのみだ。

「まあ、とりあえずは、練習するしかないんじゃない」

「だね」

これから、きっと楽しくなる。明るくなる。そう信じて、私たちはまた、舞台に立つ。