ファミリーヒストリー記録社 代表 吉田富美子のはじまり
最初のお客様は、お母様の喜寿のお祝いにと、娘さんからのご依頼だった。
浦和までお話を直接聞きに出かける。
戦争の話や大変な体験など…ただただ淡々とお話してくださる。
逆にこっちがうっと込み上げるものがきて、想いが憑依するというか想いがこちらに迫ってきたような感覚があった。
「あら、あなた私の代わりに泣いてくれてるの」
ふいにお客様が私にいった。
本当に泣いているわけではなかったが、お客様の気持ちになってお話をお伺いすると、心から共感して、想いは伝わるんだなと大切なことを学んだ出来事だった。
最初のお客様から早8年。多くのお客様の歴史を、想いを本にまとめてきた。
正直いえば、ものすごくこの仕事をやりたくて始めたわけではなかった。
最初の仕事もそうだし、自分を振り返って見ると、流れのあるところにジャボンと入って、逆らうわけじゃなく、流れに沿って一生懸命泳いでいるうちに、そこで身についたことができて、と自分の中では連続的な流れが今に至っている。
目の前のやっていることを一生懸命にやってここに行き着いた。
とにかくこれをやりたい!という軸も大切でもあるけど、逆に私には軸がなかったから、お客様の望むことに柔軟に対応できている。無いものは無いなりにいいこともあるかもしれない。
創業当時は1人でのスタートだったが、全国にいる17人のスタッフにかこまれた今、1人でできる仕事はごく一部で、優秀なスタッフが集まるといいものができる。大きなことができる。これは感動的で、スタッフ同士の化学反応も起きたり、とても面白い。
もちろんお客様に喜んでもらうというのが大前提だけど、スタッフがみんな楽しそうに仕事をしてくれるというのも本当に嬉しい。
今日もお客様からお借りした資料をもとに、歴史を紐解いていく。
お客様からお借りする資料はお線香のかおり。
優しいご供養のかおりがオフィスに広がる。
パソコンに向かい、お話を聞き、いろんなところに調べ物に出かける。
今でも日々お勉強。
時に白い手袋をして、薄い紙の上で丁寧に古文書を開き、マイクロフィルム化された古文書は、目が回る~とか言いながら重要な部分を追っていく。
なかなかすぐに答えは出ないが、少しずつ少しずつ調べていく毎日。
本当に一つ一つの積み重ねが大切で、ほんの小さな糸を手繰り寄せると、足跡が見つかることもある。目は大事な商売道具。大事にしなくては…でも、何百頁探しても、何も発見が無い時もあり、そんな時の帰り道はとぼとぼ歩く。
無かったことも調査結果のうち、そう思ってまた調査を続けていく。
からりと晴れた一日、現地調査に出かけた。
壮大な田園風景が広がる。
風に稲が揺れて、サアァという心地よい音とともに、生き生きした緑の香りが鼻をかすめる。
そんな現実と数百年前の出来事が、現地の方から同時に語られている不思議を感じる。
繋いできた命、繋いできた歴史のお話。
私もこの“ファミリーヒストリー記録社”を繋げていく。
今はまだちっぽけな事業だけど、これからも聞く技術、探す技術を磨き続け、自分が死んでも続いていくサービスとして残っていってほしいと願ってやまない。
家族のはじまり。
それはあなたのはじまり。
※この小説は、出演者本人のインタビューを元に、Sainomedia編集部で創作した小説となります。