ミュージシャン 芥 大田誠師のはじまり
北へ、北へ、、
ガタゴト、、重い気持ちの僕は車窓をぼんやり眺めていた。
車窓がドンドン変わっていく。
その電車の終着駅は、僕の生まれ故郷とおんなじ呼び名の“仙台”だった。
駅を降りると、外の澄んだ風が吹いてきた。
濁ったまぜこぜの東京の風じゃない。
新しい風に体を押されるように、路地にある居酒屋にふらっと入った。
酒の力はさすが偉大だった。
僕は酔って、酔ってそりゃもういろんなことを愚痴った。
自分の中に蓄積されたものがドバァッッと洪水のように出ていた。
そこに居合わせたおじちゃんやお店の亭主は親身に僕の話に耳を傾けてくれた。
愚痴混じりの濁り酒は、だんだん体や心を温める、なんだかいい酒になった気がした。
気持ちがすうっとして、透明な澄んだお酒に変わっていくようだった。
お酒をご馳走になり、安い寝床を教えてくれて、帰りにはおにぎりを持たせてくれた。
見ず知らずのたまたま来た人間だったのに、そこは優しさと温かさに満ちていた。
安宿でぐっすり寝たら、またなんだかエネルギーが満ちてきた。
なんて単純。自分の単純さに笑っちゃうけど、この1日は僕らしくて僕を作っている大切なカケラだ。
僕らしい。
自分の歌もずいぶん僕みたいだ。
能天気だったり、妙に冷めてたり、大雑把や繊細やら、いろいろ渾然した僕だけど、僕の歌には僕らしさが端々にあった。メロディや歌詞に断片的にある自分。
生涯、これをおし進める価値があることのように思えた。
よしゃ!1秒1秒生きよ!とも思わないし、なぜ生きるのか、なぜやるのか。
衝動なのか、惰性なのか。
好き嫌いでくくるのはなんだか惜しい気もする。
僕は“芥”をもう一度作るため、鹿児島のバンド仲間などに声をかけた。
そうすると僕の誘いにポツリ、ポツリと鹿児島から上京してくれて、ようやくバンドとして新たな活動ができるようになった。
僕は、ただ、いい曲が描きたい。
純粋に、自分も痺れたいし、言われたい。
人間の体の中は、真っ暗な懺悔ボックスのようなもんだ。
神父さんや神様を代用して自分と話している。
そんな自分の満たされない、暗い部分にちょっとタッチするような音楽。
そんなみんなにある普遍な部分がある音楽。
あなたと僕は違う人間だけど、例えば、僕の中にある緑のピーマンとあなたの中にある黄色いピーマン。
ほら、2つともおんなじ“ピーマン”でしょ?
あなたも、僕も、生きている。
言葉は偉大だけど、時々無力な気がする。
伝えたい事が、言葉にするとなんだかなぁになる時がある。
でも、僕の音楽で、聞いてくれる人がほっとできたら。
少しでも気持ちが浄化できたら。
あなたも僕も孤独じゃないように。
歌の中であなたはあなたにいつでも会えるような、そんな歌を僕は歌うから。
大人はつらい?
世は世知辛い?
別になにもない
こうやって歌も歌えるし
歌の中いつも会えるし
ね。
※この小説は、出演者本人のインタビューを元に、Sainomedia編集部で創作した小説となります。