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大田誠師

ミュージシャン 芥 大田誠師のはじまり

カーテンもない、布団もない状態からの一人暮らし。

しばらく、コンビニやファミレスで掛け持ちして働いた。

疲れている時、細かく考えたくない輪郭をぼやかしたい時、心を解きほぐすのに、酒の力が役に立った。

小さい頃は「お酒なんか飲まんもん」と可愛く言ってたはずなのに。

楽しくなりたくて飲んでいるのに、なんだか暗い暗い酒だった。

不変なものなんてなかなかない。変わらずい続ける不変。現に父も軍人のじいちゃんがいなくなってから、何かが変わり始めた。僕だって、成長し、お酒を飲めるようになった。変わり続けている。でも変わってしまうものの中に、“普遍”はちゃんとある。

みんなが共通している生きるや死ぬということ。これは“普遍”なことだ。

僕は酒を飲めるようになったが、僕という固有のものに関しては、変わらず音楽が胸にあった。

僕は、ライブハウスや高校の友達のツテで、スリーピースバンドを組むことになった。

名前は“櫻島(さくらじま)”

鹿児島だから桜島。あまりにもベタすぎて、今ではちょっと恥ずかしい。

ボーカル兼ギターは僕。

ドラムが同級生の弟。

ベースはアコースティックユニットの時のメンバーの友達。

でも長くは続かなかった。

ドラム担当から、“自分で自分の城を建てたい”

と壮大な宣言があり、僕らはおぉそうか〜と。そうして僕らは解散した。

音楽を一度休もうか。

そんな気持ちが心をよぎった。

「休んじゃダメだ。やり続けた方がいい」

周りの後押しもあって、僕はライブハウスで知り合った仲間たちと新たなバンドを結成することになった。

バンド名はどうしようか、、なんだかでっかい大それたMr.BIGとかなんて名前じゃなくて気負わなくていい名前、、

ふと、どこかで見た図書館のゴミ箱を思い出した。

古ぼけたゴミ箱には、筆のようなもので一文字〝芥 (あくた)〟と書いてあった。

僕は辞書を開いてみた。

あくた【芥】

1 からし菜。香辛料のからし。

2 ごみ。ちり。

ゴミなんて、一般的に意味がなくて価値がない。なんてぴったりな名前なんだろう。

僕はバンド名を“芥”という名前にすることを決めた。一応断っておくが、作家の芥川からとった意味のある名前ではない。

意味がない、価値がない。

これにこそ僕は価値がある気がしていた。

料理のアクもそうだ。

アクには栄養がいっぱいあるそうだ。あんな灰色でモコモコした濁ったものなのに。

汚い部分にこそ何かが隠れていることもあるのかもしれない。ダイヤの原石みたいに。

それから僕たちは鹿児島や福岡、宮崎や熊本、ガンガン音楽活動を開始した。

その中で有名なアーティストと対バンもした。

「お前たちあの有名なバンドとやったんか!お前らすげーな」

そんなことも言われることもあった。

僕たちが凄いんじゃなくて、凄いのは対バン相手だ。

ただ一緒にやっただけで一目置かれてしまっていた。

おかしい。

鹿児島という小さな空間に嫌気がさした。

鹿児島を出たい。

そんな気持ちが強くなっていた。

周りにも「お前は東京へ行け」と後押しもあり、僕は単身上京することになった。

上京にはちょっとしたコネとツテがあったから、先輩家に転がり込み、バンドメンバーもコネですんなり集まった。

新生 “芥” 誕生。

でもコネで集まったメンバーはあくまでもコネだ。

紹介してくれた人がいる時と、いない時の態度が明らかに違う。

僕は、このメンバーとうまくやれる気がしなかった。

「お前このメンバーでできないならバンドはできないよ。」

紹介してくれた人にはさらりと言われてしまった。

コネは一瞬でもろくも吹っ飛んだ。

そんなもんなのかもしれない。結局簡単に手に入ったものなんて。

東京という単位、人という単位にもなんだかもうウンザリだ。

だからと言って鹿児島には帰れない。

ここではないどこか、、僕の出身は南国鹿児島だから、ふと北を目指そうと思った。