町工場親善大使 羽田詩織のはじまり

仕事は声優だけではなく、ナレーションや司会、一人芝居やダンスなど色んなことに挑戦し、毎日忙しく充実した日々が始まった。

仕事の帰り道、ふと空を見上げる。

その日の空には、無機物ステキ代表・高架線がそびえ立っていた。

思わずパシャリ。カメラのシャッターを切る。

ただの電線には出せない、空に映える迫力と存在感がなんとも言えない魅力。

これだけ、存在感あるタワーになるためには、下からの積み上げが何より大事。

仕事もそう。コツコツ、コツコツ、小さな努力の積み重ね。

夢だった仕事は、外からは分からない、現実の厳しさや違和感に遭遇することもあった。

そんな中、イベントで偶然知り合った、町工場の社長さんから全日本製造業コマ大戦というイベントで司会をしてほしいと依頼が入った。

場所は日本橋三越。

“日本橋”となるとキチンとした格好しなくちゃと、私は母にピンクベージュのジャケットを借り、黒のスカート、パンプスにネイルもナチュラルにし、ザ・司会者感を意識して、私なりに気合を入れて臨んだ。

全日本製造業コマ大戦とは、日本全国の町工場の職人が、自身の持つ技術を駆使して、直径2センチのコマを製作し、小さな円盤状の土俵で戦うというもので、小さなコマ1つ1つに並々ならぬ熱意と技術が溢れんばかり詰められている。

会場は、来場者と運営側が一体化し、ものすごい熱戦が繰り広げられた。

大の大人達が、まるで少年に戻ったように、キラキラした瞳で土俵を見つめている。

クルクルッと小さな円を描いて回る美しいコマ。

対決するコマがぶつかり合う。

バチンッ!!

素材によって、コマがぶつかる音が違う。

技術と職人の意地のぶつかりあい。

歓声とどよめき。

なんてドラマティック。

瞬きさえもったいない。もう、一瞬たりとも目が離せない。

私の家系は女系で、学校も全て女子校なのもあって、カラッとした男子の熱さ、汗や涙のキラキラした世界観に、心をガシィッと掴まれた。

その後も全日本製造業コマ大戦の別の場所で行われた大会にも、司会として参加し、町工場のラジオ番組のアシスタントもやることになった。

町工場の専門用語は、聞き慣れない言葉ばかりで、知らない言葉はみんなが教えてくれて、私は未知の世界を知ることができて楽しくて仕方なかった。

私の町工場愛はドンドン膨らんでいった。