やわらかん’s cafe オーナー 鈴木公子のはじまり

職場では、会社独自のキャラクターを作って売り出すというプロジェクトが立ち上がり、私もこれからという時に、この部署に配属が決まった。

このチームは、ぬいぐるみや可愛いものが大好きな女子が集まっていて、みんなの机には、推しのぬいぐるみたちが、仕事ぶりを優しく見守っていた。

仕事が大変なときは、カレイちゃんがいつも励ましてくれた。

『マーマル、わたし、女の子なのに汚れてるのはレディとしてどうかと思うの』

カレイちゃんは私のことをマーマル(哺乳類)と呼んでいる。

そんな声が聞こえてきた気がした。

ふと、カレイちゃんのボディーが黒ずんできたことに気がついた。

「ぬいぐるみを洗いたいんですよね」

会社の先輩に相談すると、ぬいぐるみ好きな先輩は

「それならいいところあるよ。人間みたいに接してくれるんだよ」

と、あるクリーニング店を紹介してくれた。

大好きなカレイちゃんと離れるのは辛いけど、このお店はクリーニングだけでなく、近所にお散歩行っている様子や、今どんなことを楽しんでいるのかをWEB上にアップしてくれるサービスまであった。

まるで、カレイちゃんがひとり旅をしているみたい。

ぬいぐるみが私の手を離れて、どこかに行っても動いている。

あぁ生きているんだぁ。

感動で、、なんとも言えないうれしさ。

あぁこのあったかい感じ「ぬいぐるみ好きでいいんだよ」って、ありのままの自分を受け入れてもらえている感じがする。

こんな風にぬいぐるみたちが、いつでもあたたかく迎えてもらえる場所があったら、、、ぬいぐるみも、その飼い主さんもうれしいだろうなぁ。

この感動を、ぬいぐるみを愛するみんなに届けられたらいいのに。

私は、一人旅を終えて、おみやげ話をするカレイちゃんを見て強くそう思った。

その頃、会社では、独自に生み出した動物のキャラクターは人気になり、ファン向けイベントをやろうということになった。

その中で、キャラクターのゆかりのある、伊豆や長崎の観光地を、お客様のお持ちのこの動物のキャラクターのぬいぐるみと一緒に回るというツアーをやることになった。

当日の集合場所は東京駅付近のバス乗り場。

大事そうに抱えられた、それぞれのぬいぐるみさんたちがお客様に抱えられて大集合。

おんなじキャラクターのぬいぐるみだけど、みんな違う。みんなそれぞれ違って、本当にかわいい。

それはまるで夢のような光景。

お客様の隣には、大切なぬいぐるみさんがちょこんと座って、まるで私たちとおんなじよう。レストランではぬいぐるみたちとごはん。

ぬいぐるみさんたちも、お客様もとても嬉しそう。

私も心がじんわりあたたかくなって、笑顔のぬいぐるみさんたちの顔を見て、次回はぬいぐるみだけのツアーがあってもいいんじゃないかと、上司に提案した。

「うーん、まぁ、旅行会社に相談してOKならね」

案の定、旅行会社からは

「人間のいないツアーはちょっと、、」

と難色を示されてしまった。確かに人間がいない旅行は単価が下がってしまう、、いつもなら、頑張ってプレゼンするところだが、ここは納得してあっさり引き下がった。

でもいつかやりたいなぁ。そんな旅行企画。

私はいつかを夢見て、企画をそっと胸に大切にしまった。